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土曜日の昼前、勢いよく玄関の戸が開く音がし聞き覚えのある声がした。
Tのおばさんである。
玄関に出ると「はいこれ」と手に持ったスーパの袋をさしだした。
その袋の中には2枚のあわびと10数はいのさざえが入っていた。
母親が懇意にさせてもらっていたが、母親がなくなった今も
時節のものをよくいただく。
おばさんは70歳なかば、元気であるが
1つ持病がある。
持病とは頭痛であり、若いころからこの病気で悩んでいる。
今日もこらえきれず、近くの医者へ行ってきた帰りである。
注射と薬をもらったそうであるが、
お医者さんが薬を出しますと言った時に、おばさんは
「先生、長生きする薬入れんといて」とたのんだそうである。
2男、1女にめぐまれ、それぞれ家庭を持ち孫数人がいる。
夫は健在で夫婦円満な様子。
いただいた海の幸は時々漁にいく息子さんが採ってきたものであろう。
かみさんも玄関にでてきて女どうし話しがはずむ。
私は、話に相槌をうちながらもっぱら聞き手にまわる。
夕方、あわびはさしみに、さざえは壷焼きにしていただき、ビールを飲む。
しかし、「先生、長生きする薬いれんといて」という言葉の真意は
なんであろうか。
頭痛の痛さにこらえきれず出た言葉であろうか。
私も時々お世話になる老医師が(おそらく長い診療期間でも初めて聞く言葉と思うが)
その時、どういう反応をされたであろうか。
少し酔いかけた頭であれこれ考えたが
当然その理由はわかるはずがない。
なにかの折にたずねてみようかとも思う。
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