6羽の雛
5月のある日、船の中で春眠をむさぼっていたら、キャビン(船室)の入口にやたら
セキレイがのぞきこむのである。
その行き先は船尾にあるハッチカバーの下のようである。
どうやら巣つくりでも始めたのかと思いカバーをもちあげると、巣が作られたおり
その中には6羽の雛が生れていた。
6羽の雛はじーとうずくまっていたが、ことらが呼びかけるといっせいに皆元気に
鳴きだした。

しかし困ったことに翌日は船を陸上げする日なのである。
何艇かが計画しクレーンを呼んでいる。
この日を逃すと1艇だけの上架になり、クレーン代が負担になる。
岸のよしずの中に置こうと思ったが、蛇にやられそうだ。
とりあえず、隣の船の船尾に移し変え帰る。

しかし聞くところによると、鳥は場所が変わると自分の雛も認識しないということである。
意を決して自分で育てるべく再度船へ行く。
結局、往復2時間かかりで雛を自宅に収容した。
畑でみみずを取り餌とする。
皆、食欲旺盛である。
少年時代いろんな鳥を飼ったことがある。
とんび、ふくろう、きじなども飼ったことがある。
この時の経験からすると、ほしがるままに餌を与えると失敗することが多かった。
少なめに餌を与えた。

2日目の晩は少し冷え込んだ。
心配になり、早朝暗いうちに起きだし雛を見に行く。
巣の蓋をとるが全羽動かない。
そっと1羽を持ち上げた。
あれほど暖かかったのに、もうほとんど体温は感じられなかった。
全羽だめであった。

餌の分量が原因であろうか。
船でそのままにしておけば、あと少しで飛び立てるものを人間のエゴでずいぶん
かわいそうなことをした。
裏庭の柿の木の下に埋葬し、
夕方、6本のろうそくと線香をたて葬送した。
風もないおだやかな日であったので
線香の香りはあたり一面にいつまでもただよっていた。