文化の学習室#04 フラメンコと汗の距離

 

このページは、

あんとん2さんが我が家のBBSに書き込んで下さった内容を

転記させていただいたものです。

BBSで読み流してしまうのが惜しく、ここに載せさせていただきました。

 

フラメンコと汗の距離(1)

 スペインのバルセロナに、「タラントゥーラ」と言うフラメンコで有名なお店があります。

御分かりの如く、語源は毒蜘蛛です。

例えば、観光客などは、別の(日本で言えばxxハワイアンセンター様に)多人数が処理出来て、

外人の扱いに慣れた店が案内されてたりします。
しかし、このお店は地元の人に対して有名なだけで、客のほとんどがスペイン人です。

 そんな生粋のフラメンコシアターですが、客席はおよそ30席程で、
そこらの喫茶店程の広さの中央に、高さが1m位のステージがしつらえてあります。

踊り子は4、5名。バンドは3名(内1人がボーカル)。
ご存知の様に、ヨーロッパの照明の風情は、あまり動いたり点減する物は有りません。

白なり赤なり、付いたままで、ネオンサインなども極端に少ないのが普通で、

街でもこの様な店内でも、同じです。

 さてポワッと1点付いたライトアップの中で、

前川清の様な不動で歌うおっさんが、何やら物悲しく歌い始めると、始りになります。

所々でこぶしと裏声を入れながら歌う様は、あっちゃ版の演歌の様でもあります。

 程なく踊り子が、靴の音もカン高く響かせながら出てきます。

最初はおとなしいんですが、段々と動きが激しくなり、曲のピークへと誘(いざな)います。

どうも顔見世要素もあり、ランクの下の者から順次 出てくる様で、

曲数が進む程に、年齢も上手さもUPして来ます。

 

フラメンコと汗の距離(2)


前川と言っても、あちらのは、髪は天パーで顔にも皺が多くて、うらぶれた労務者の風体で、

まさか肉声で歌うおっさんとは思えないのだが、とても良い味出してます。

楽器はシンプルにしてこれぞフラメンコの代名詞、6弦ギターにカスタネット、

後はステージの木張りの床とこれだけ有れば十二分。
ターンと言う靴底の音、ソロボーカルはそれだけで店内に響き渡ります。

*カスタネットは原点である貝がらを2枚合わせた形の物
*店内は丁度カウンターバーの様にフロアに丸いテーブルが数個置いてあります。

 ここで、いわゆるタップダンスとの違いの様な物が見えてきます。
遥かに歩数は少ない物の、その踊りは歌詞に合わせて起承転結を内包し、

とても感情豊かに表現されて行きます。

細かく、激しく、悲しく、力強いもの。
タンゴともオペラともまたミュージカルとも違う独特のものが有ります。

 ちょっとここで少し想像して見てください。
古きを愛しむヨーロッパの町並みは石造りが多く、

建物や道路は中世を想起させる場所が多いです。

そのせいか入り組んだ路地裏で遊ぶ子供たちの声は、かなり響きます。

人が歩けば、カツーンと言う靴音。夜の街並みには人気も無く、猫が徘徊し、

どこか寂しい「マルコ」の世界です。

この音をも象徴した物かも知れません。

 そんな劇場に良く集るのはやはりマドロスと兵、それも引退した人が多いとか。
別にルールじゃないけど、ワイワイがやがやと一杯やりながら観る事は出来ません。
と言うのも、それだけ引き込まれて踊りに陶酔出来るからなんですが、

曲が始ると、合の手も手拍子も無く、皆食い入る様に一点凝視になってしまいます。
 最初は物見遊山でキョロキョロしていた私もが、それ所ではなくなって来ました。
そうプリモです。交代で踊りを踊り、ついにプリマドンナでピークになります。
流石です、最も上手い彼女は、最も激しくその踊りに力を込めて行きます。

 彼女達は20代でしょうか?いやプリマドンナは30代かも知れない。

しかし、その人が一番光って見えてしまいます。

一言で言うならば「強く悲しく切ない踊り」、それがフラメンコです。

そう、ボレロに近いかも知れませんね。
そして、ここに更にいい味を出すために、プリモ(男性)が登場してくるのです。

 

フラメンコと汗の距離(V)

 このおじさん一見はどこにでも居る普通のおじさんに見えます。
そして踊りもやはり普通なんです。ただ少しリズム感が良いのかな?って位で。
どんな感じかと言うと日本人なら谷啓さんを少し若くしたイメージ。
衣装を着て、パリっとはしてますが歳の割にはまあ「やってるね」の程度。

 しかしこれが結局踊り子を引きたてているんだなあと時間と共に解って来ます。
このおじさんも、前出のボーカルも「ここ」と言う間(ま)で手を叩きリズムを
リードします。例のあれですね

   → 掛け声「オー・レ」ここで手を鳴らし「パン!」と入れる。

 この作法はかの昔、西郷輝彦氏が歌った「星のフラメンコ」で披露された形。
そう片方の親指以外の四本でもう一方の手のひらを叩く様にして鳴らします。
ただ違うのは西郷氏はその位置をどちらかの肩口に持って来ましたが、
スペインでは胸の前の正面で行う事ですね。
この手拍子が単発で或いは連発で場内にこだまし、
カスタネットとハモったりして次第にムードが高揚していきます。

 プリマが目の前3Mの距離で舞い踊ります。
ロングスカートの端を掴んで振り回すと微かな風を感じます。
彼女らの激しい息使いは曲想が静かなくだりになるとはっきりと聞き取れます。

 如何に激しく体力を使うものか1例を挙げると、彼女等は交代で踊るため
にステージ隅の小さな木製のベンチに腰掛けて休みつつ時折掛け声と手拍子を
入れるのですが、踊り終えて腰掛けた瞬間から次の曲が終わる頃までずーっと
肩で息をしているのです。これは一般的に表現される様な「激しく情熱的な踊り」
なんて物ではないですね。
目を見開き、眉間に皺を寄せ、歯を食いしばって踊る様はやはり「強く・悲しい」
の表現がぴったりです。恐らくその歌詞の内容は悲恋を謳ったものと感じます。


 ここでそのエッセンスを味わって頂ける様に、タラントゥーラと同じ
バルセロナに有る、と或るフラメンコレストランのHPをご紹介します。

  El Tablao de Carmen  
http://www.tablaodecarmen.com/index_a.htm
  
ここでそのステップのニュアアンスが理解出来ると思います。次に

  
http://www.tablaodecarmen.com/ang/esp.htm 

ここに幾つかのアニ.gifが有りますので形も。(良く似たおじさんも居ます(^^ゞ)


 さて、この御話の核心です。
ほとんどの座席は前出の様に「かぶりつき」なんですが、少しぶどう酒も入り
興奮気味で食いいって見ているとなにか冷たいしぶきの様な物が額に・・・
3回程何か落ちて来たのです。その時には気付かなかったんですが名残惜しく
店を去る頃にやっと判りました。そう「汗」だったんです。

 たびたび回転する彼女のどこかから放たれし雫、我に到達せり。
今日ここにストロンゲスト・リコメンドしておこうではないか・・・

  「フラメンコ・観るならその距離・3メータ」(字余り)


 ・・・・・・・・・・・・・・フラメンコ探究家 あんとん2・・・・・・・・・・・・