ケロロ西遊記パロ―第三章―

そのA 流沙河の水妖

 宿の女将が言ったように、西へ進んで行くほど乾燥地帯が広がっていった。初めのうちは木などが生え、
緑が見えたものだが、今では小さく貧相な雑草がまばらにあるだけである。乾いた風が砂煙を立て、強い
日差しが黄土色の地に濃い影を落とす。馬に乗っているにも関わらず、三蔵は既にバテていた。
「あー暑いでありま
すううううう!」
そんな師匠を、二人の弟子は呆れ顔で見上げた。
「馬に乗っているのにバテる奴があるか!」
「師匠には敬語を使うでありますよ!この猿!」
「お師匠さん、悟空さん、こんな時に喧嘩とかマジでやめて下さいよねー。余計暑苦しくなるだけですぅ」
そんなやり取りを続けながら歩いていると、悟空が突然立ち止まった。
「ん?どうかしたでありますか?」
「……水音がする。例の河かもしれん…八戒!気を引き締めていくぞ」
「はいですぅ!」
 しばらく進むと、悟空の予想通り河が現れた。それは予想よりもかなり大きな河で、水の流れは激しく、
向こう岸は霞んで見えるほど遠くにある。岸辺に石碑があった。三蔵達が近づいてみると、「流沙河」の
三文字と、その説明のような文が書いてあった。

「る、さ、が…でありますか」
「川幅800里!おっきな河ですねぇ!」
「鵞鳥の羽根すらも沈む、か。一体どんな水だ?」
 その時突然、鋭い殺気を感じた。とっさに、悟空は隣の三蔵を抱えて川岸から離れた。ドザアッと音を
立て、さっきまで三蔵が立っていた地面がえぐられた。間一髪だった。

「貴様ッ何者だ!?」
悟空が叫んだ。
 舞い上がった砂煙の中で、青い影がすっ…と立ち上がった。顔の半分は布で覆われており、表情が読め
ない。暗く殺気に満ちた目が、静かにこちらを見つめていた。

「てめぇ!僕のお師匠さんになにしやがんだああああ!!」
 キレて裏人格になった八戒が、馬鍬を手に妖怪に打ちかかった。妖怪も素早くそれを宝杖で受け止める。
八戒の攻撃は、一つ一つが重く、威力がある。しかしスピードはそれ程速くない。一方、妖怪はかなり素
早かった。少しずつ、八戒が押され始める。

「御師匠、絶対にここにいろ!」
三蔵に一言そう言うと、見かねた悟空は八戒の助太刀に入った。如意棒を、妖怪の頭へ一気に振り下ろす。
すると、

ぽんっ――――
軽い音を立て、妖怪の姿が消えた。今まで戦っていたのは妖怪の本体では無かったのだ。
「しまった!」
悟空がそう叫んだのと、三蔵が間の抜けた悲鳴を上げて河の中へさらわれたのとは、ほぼ同時だった。
「お師匠さ―――ん!!」
八戒が叫んだ。
 それに答えるかのように、ぶくぶく…と川面に気泡が浮かんでは割れたが、すぐにそれも止まった。
「悟空さん!早く助けに行かないと!」
お師匠さんが、と言いかけて八戒は、悟空の様子が妙なのに気付いた。
「……悟空さん、どうかしたですぅ?」
「……八戒、その…つまりだな…俺は山育ちだろ…?……」
「…?…それがどうしたんですか?」
悟空は、それはそれは気まずそうに、言いづらそうに、そして恥ずかしそうに黙りこくってしていたが、
ついに決心したらしく、再び口を開いた。

「俺は……」
「はい」
「……………んだ……」

――――――――――は?

八戒は一瞬、何を言われたのか分からなかった。
「…え?今何て?」
「な、何度も言わせるな!だからッ………俺は泳げないんだ!!」
「……いや、笑えないんですけど先輩」

 天下無敵の斉天大聖は、まさかのカナヅチだった。
どうする八戒!?そしてどうなる、三蔵法師!?

…第三章Bへ続く