ケロロ西遊記パロ −第一章−

〜孫悟空、三蔵法師と出会う〜

 唐の都からそう遠くない所に、「五行山」という山がある。一見、何の変哲もない山だが、実は違った。以前、このような山は無かったのだ。

500年ほど前、石から生まれた石猿・孫悟空は、多くの猿や妖魔を引き連れ、天界で大暴れの限りを尽くした。しかし、釈迦如来との勝負に敗れ、巨大な岩石群とともに下界(人間界)に落とされてしまう。下界に落ちた岩石群は山となり、山頂の石牢に石猿は封印された。こうして、五行山ができたのである。

 「おぉっ、あの山でありますか。」
五行山に程近い農村。そこに、一人の旅人が来ていた。
「待っているでありますよ、我輩の弟子よ…」
旅人は馬を進め、五行山へとむかった。


 一方、五行山の山頂では、封印された悟空のもとに、観音菩薩が供を連れて来ていた。
「おい、起きろよぉ。それとも逝っちまったのか〜?弼馬温よぉ。クークックック」
悟空は天界にいた時に、弼馬温(一番位の低い仕事で、ただの馬飼い)をやらされていた事がある。なので、彼をこう呼ぶ事は、最大の侮辱なのだ。悟空は石牢の中から不機嫌そうに返事をした。
「その名で呼ぶな!言われなくとも起きている。貴様のような奴が何のようだ。」
「無愛想な奴だぜぇ〜。」
嫌味ったらしくニヤリと笑う観音菩薩。
「まあ、手短に言うとだな、もうすぐ玄奘三蔵という唐の高僧がここに来る。封印を解いてもらったら、お前はその僧の弟子にな  り、天竺まで供をしな。以上だ。クックック…」
「人間の供をしろだと?……まあいい。このまま石牢に閉じこめられているよりは、その方がずっとマシだろうからな。」
悟空がそう言うと、観音菩薩はニヤリと言った。
「それはどうだろうなぁ〜?」
「どういう意味だ?」
「ま、後でわかるぜぇ〜」
観音菩薩はそれ以上何も言わなかった。仕方なく、悟空も口をつぐんだ。


 観音菩薩が去った後、悟空は静かに僧を待った。
 が、来ない。観音菩薩が来てから、すでに三日が経っていた。

『遅い…何をしているのだ、その僧は?それとも観音菩薩が嘘をついたのか…?』
悟空はイライラと疑問を浮かべる。するとその時、

カシャン…カシャン…

と、僧の持つ錫杖の音が聞こえてきた。音の聞こえてきた方向に目をやると、馬に乗った人影があった。
『ようやく来たか…』
近づいてくる人影。その人物は、服装こそ僧そのものだが、顔立ちはまだ幼かった。僧は、石牢の前で止まり、馬から下りると、悟空に声を掛けた。
「そこのチミー、我輩の弟子になる者でありますな?」
悟空は気が抜けた。この人物が玄奘三蔵だとは思えなかったので、即座に言った。
「人間がここに何の用だ?早々に立ち去れ。」
「失礼なヤツでありますなぁー。…あ、名前言わないと分からないか。」
コホン、と咳払いをする。
「我輩は、天竺へ経を取りに行くべく帝に命じられた、玄奘三蔵であります。」
悟空は耳を疑った。
「玄奘三蔵…貴様がか?」
「そうであります。観音菩薩様から、五行山の石猿の封印を解き、弟子にするように言われているであります。」
そう言って三蔵は、石牢に張ってある札を剥がそうとした。すると、札は突然、炎をあげて燃え上がり、消えてしまった。石牢の太い格子は、音を立てて地面に沈んだ。
「さ、封印は解けたでありますよ。」
「本当に…外に出れるのか……」
「当たり前でありましょう!我輩本物の玄奘三蔵なんだから―っ」
そこまで言うと、三蔵はあっと気付いた。
「名前聞いてね―…」
「はあ…?」
「お前の名前であります。石猿よ、名は何というのでありますか?」

悟空は少し迷った末に――――――――ボソリと答えた。
「……孫悟空だ。」
「悟空、でありますな。よい名であります。これからお前は我輩の弟子でありますから、我輩の事は師匠と呼ぶように!
 あと、できれば敬語がいいな♪」

悟空は思わず、ふっと笑った。
「分かりましたよ、御師匠。」
 悟空は立ち上がり、500年ぶりに石牢の外へ出たのだった

こうして、三蔵法師と共に旅をする事になった悟空。
この先で彼らを待ち受けるものとは…
果たして彼らは、無事天竺へとたどり着けるのだろうか…