幻想交響曲Op.14 H.Berlioz(1803-1969)

 この作品には「ある芸術家の生涯における一挿話」という標題がつけられており、ベルリオーズ自身の体験をもとに作られたと言われている。
 また楽譜には標題とともに次のような文章も記されていた。「感受性に富んだ若い芸術家が、恋の悩みから人生に絶望して毒服自殺を図る。しかし薬の量が足りなかったため死に至らず、重苦しい眠りの中で一連の奇怪な幻想を見る。その中に、恋人は一つの旋律となって現れる・・・」
 時は1827年、青年ベルリオーズは27歳。音楽学生としてローマに留学していた時に、スミスソンという女優に恋をし、結婚を申し込んだが断られてしまう。何度か自殺をしようとしたほど絶望していたが、これをバネにして1930年に作曲されたのがこの「幻想交響曲」であるといわれている。この交響曲は大変に感受性の強い作風で、奇怪な幻想を「描写」する本格的な「標題音楽」である。

第一楽章「夢・情熱」
 木管楽器によりはじまりホルンが加わって物語の開始を告げる。続いてヴァイオリンが夢見るような旋律を奏しはじめる。恋する女性に会う前の心の不安定さや憂愁を表しているのである。
 ゆっくりとした序奏に続いて、アレグロの主部はフルートとヴァイオリンで演奏される主題でスタートする。ベルリオーズはここに「夢の中で恋をする女性が旋律となって現れる」と注記している。これは「固定観念」と呼ばれ、恋する女性を表している。全曲を通して何度も登場するが、この「固定観念」が現れたときは、恋する女性が彼の目の前に現れたり、あるいは彼が彼女の事を思っている場面なのである。

第2楽章「舞踏会」
 「賑やかな舞踏会のざわめきの中で、若い芸術家は再び恋人に巡り合う」
 弦楽器のトレモロにのりハープが登場して、舞踏会のざわめきや華やかな雰囲気を表し弦楽合奏でワルツが始まる。他の男性とワルツを踊っている彼女を発見!人ごみの中で見えては隠れる彼女に心を焦がしつつも、何とか近づこうと試みるが、結局ワルツが高潮してきて人込みに呑まれてしまい、見失ってしまうのであった。

第3楽章「田舎の風景」
 「ある夏の夕べ、彼は野で交互に牧歌を吹いている2人の羊飼いの笛の音を聞いている。非常に静かである。恋する人との未来への希望、身の回りのもの全てが彼に人生の愉しさを与えてくれるようだ。しかし無限の静寂の中に身を沈めているうちに、再び不安がよぎる。「もしも彼女に裏切られたら・・」その時一人の羊飼いが笛を吹く。しかしもう一人は答えない。迫ってくる夕闇をビオラが、遠い雷鳴をティンパニが、小鳥の歌声を木管楽器が表現している。結局一人取り残され、孤独感が強まっただけだった。

第4楽章「断頭台への行進」
 彼は夢の中で彼女を殺してしまったようだ。死刑を宣告され断頭台へ向かって連れて行かれる。その行列に伴う行進曲は、時に暗くて荒々しいかと思うと、今度は明るく陽気になったりする。激しい発作の後で、行進曲の歩みは次第に陰気さを増していく。一瞬恋人の事が頭の中をよぎるが、ギロチンの一撃で打ち切られてしまう。

第5楽章「悪魔会議の夜の夢」
 5月1日の前夜に魔女達が集まって酒宴をひらくという伝説からこの最終楽章が生まれたと言われている。まず彼が見たものは、彼の葬式に集まってきた怪物や魔物達の踊りであった。そこに彼女も現れるが、彼女も魔女達に加わり地獄のように乱舞する。「固定観念」の旋律が聞こえてくるが、もはや気品とつつしみを失い、グロテスクな悪魔の旋律に歪められている。鐘の合図で、テューバとファゴットがおどろおどろしく奏されるグレゴリオの聖歌「怒りの日」を引用して重々しい旋律を吹く。そして、結局幻想からは覚めないまま、地獄の狂乱舞が頂点に達して終わる。

H O M E