元気をくれる人
朝8時ころ、2階で雑用をしていたら「いるかあ」と玄関から大きな声が聞こえた。
おもわずこちらも大きな声で返事をした。
Tのおばさんである。年はもう少しで80歳である。80といえばおばあさん
と呼んでもいい年であるが、とてもおばあさんと呼ばれない元気さで、
れっきとした「おばさん」である。
今日はTのおばさんの親戚の90歳のおばあさんの入院見舞いにきたついでに
寄ったとのこと。
「はい。これ」と大きな発砲スチロールの箱をもらった。
開けてみると「なまこ」がいっぱいはいっている。
まだ面会時間まで時間があるようで、あがってお茶をのんでもらう。
だんなのこと、子供のこと、孫のことなどを時々愚痴をまじえながらの話を聞く。
元気な声なので、家のどこにいても話が聞こえる。
台所で妻は家事の残り作業をしながら話を聞く。
こんな多くの「なまこ」は食べきれるか心配すると、長持ちする方法を教えて
もらった。
新しいうちに内臓をとり、塩でヌメリをとり水洗いして冷蔵庫で保管すれば
1週間は楽に持つそうである。
その後、病院へ車で送り面会時間3,40分くらいして再び病院へ迎えにいく。
これからおばさんは近くの日帰り温泉へ行きたいとのことで車で送る。
見舞いにいったおばあさんの状況をたずねると
「ありゃ、(あの人は)まだまだ、死なん」と言ったので、思わず笑ってしまった。
90のおばあさんは記憶もたしかで、食欲もあり、目もしっかりしていたとのこと。
Tのおばさんの結論が「まだまだ死なん」ということであろう。
少し荒いが、Tのおばさんならではの言葉である。

温泉に着くと、おばさんは痛めている左膝をかばいながら玄関へと向かって歩き出した。
雪はふってなかったが、寒風吹きすさぶ寒い日だったので、風呂あがりでバスを
待つのが大変だろうと、携帯電話の番号のメモを手渡し風呂をあがったら
電話するように言う。
大量の「なまこ」は私の家の1週間分を残して、ちょうど遊びにきたM君や2,3軒におすそ分けした。

昼をすぎてもおばさんからの電話はかかってこなかった。
夕方近く、教えられた方法でなまこを料理していると「かえったよ」と電話があった。
帰り道、風邪をひかなかったかを尋ねると「ぜんぜん」(全然大丈夫)とのことである。
そして「さいなら」と電話は切れた。

大きな声、おもわず笑ってしまう言動、かざり気のない
Tのおばさんは私にとって「元気をくれる人」である。